留学生は、日本人以上に、仕事に関するイメージを固めすぎる傾向があります。例えば、圧倒的多数の留学生は、貿易関連、しかも事務職を希望しますが、「具体的に何をやりたいの?」と聞くと、答えられません。また、「貿易の事務って、結構、専門的な知識が要るけれど、勉強したことあるの?」と聞くと、ポカンとするだけ。その程度の実力では、内定はもらえません。そもそも、多くの人が希望しているから、競争がものすごく激しいので、就職するのはとても難しい職場です。

その一方で、留学生(特に中国人の留学生)は、「飲食業界にだけは行きたくない」と言います。これも、イメージ先行で、母国での飲食業(しかも中華料理店)のイメージや、単純作業しかしない日本でのアルバイト経験のみで、思い込んでいるケースがとても多いのです。

でも、客観的に見ると、「日本の飲食業界ほどチャンスがある業界はない」と言っても、過言ではないのです。業界の市場規模で見ると、30兆円を超えていて第9位。しかも、5年後に開催されるオリンピックに向けて、今後急速に発展してゆくことは明らかなのですから。 

こういう伸びていく業界に、今のうちに入り込めば、成功の流れに乗ることができるんです。逆に、いま花形業界であっても、10年後に同じような状態にあるかどうかはわかりません。例えば、日本では、かつて石炭産業が花形産業だったのですが、今ではどこにあるのかさえわからない業界になってしまっています。

それでは、飲食業界にチャンスがある理由を述べてみましょう。 

1)規制がほとんどない

日本では、ほとんどすべての業界に管轄のお役所があり、その管轄官庁から厳しく監視され、膨大な法律によって、規制されています。すでに成熟した業界であればあるほど、かなり頭打ち状態に陥っているのです。しかし、じつは飲食業界は、日本で唯一規制がほとんどない(危機管理のための食品衛生法などの基 準はあるが、経営上における規制という意味では、ほとんどないに等しい。)業界であり、かなり自由な商売ができます。日本に現存している大企業のほとんどは、戦後の混迷の中で伸びてきたところばかりですが、例えばワタミの場合、日本の経済界の序列が固まっていた1980年代以降に伸びていきました。要するに、飲食業であれば、これから大企業になることは十分に可能なのです。今後のジャパニーズドリームを実現できる可能性があるのが、飲食業界なのです。 

2)頑張った結果が反映されやすく、仕事がおもしろい。

日本では、通常企業の規模の大小にかかわらず、優良企業であっても、1年に1万円程度の昇給しかしません。それが当たり前なんです。しかも、留学生が多く希望する貿易事務などで は、経験者は別にして、未経験者であれば16万円~18万円からスタートになります。留学生の場合、27歳前後の人が多いので、10年経つと40歳直前になっているでしょうが、年1万円昇給したとしても、40歳直前で26万円~28万円しかもらえません。しかも、留学生の場合、10年間、同じ会社に勤めても、平社員である場合がざらであり、同じような仕事を繰り返しやらされるだけの毎日になります。その一方、飲食業であれば、働きによっては、1年以内に店長になれるチャンスがあります。店長でになれば、35万円~40万円は普通にもらえますし、数年でゼネラルマネージャー(スーパーバイザー)になれるケースも珍しくなく、その場合は50万円レベルの給与がもらえる可能性があります。さらに、頑張れば、30代で経営幹部になるチャンスすらあります。その場合は、年収1000万円も夢ではありません。このように、役職の階段を上がっていければ、仕事もおもしろく、やりがいがあることは間違いなく、単純作業の下働きを続ける可能性の高い事務系の仕事など比較にならないくらいエキサイティングな職業生活を送れる可能性が高いのです。 

3)経営陣の心が熱い

飲食業界は、若くして独立する方が多い業界でもあります。また、様々な苦労をした後で、起業したという方が多い業界です。若い経営者も、苦労した年配の経営者も、共通して言うと、人として情が厚く、従業員を家族のように大切に思っている人が多いという感じがします。そういう経営者たちは、国籍に対する偏見が少なく、むしろ見知らぬ土地に来て頑張っている留学生に対して、日本人に対する以上に、親身になって面倒を見てくれる場合が多いというのが実態です。未だに、外国人に対する偏見を持ち、労働力の一部としてしか扱わない多くの日本企業よりも、留学生のとって格段に過ごしやすい業界であるいことは、間違いありません。 

以上、色々と申し上げましたが、少なくとも飲食業界は、今、圧倒的な人材不足であり、就職のチャンスが高いという現実があります。 

世界的なマネジメントの権威であるPFドラッガーという経営学者は以下のように述べています。

「若者は学窓を旅立つとき、自分自身についてほとんど何もわかっていない。・・・・最初の仕事はクジのようなものである。ふさわしい職場を得る確率も高くない。自分に合った仕事につくまでには数年を要する。」<引用:PFドラッガー著『非営利組織の経営』より>

要するに、最初は自分にどんな仕事が合うかなどわかるものではないのえす。それならば、合うかどうかはわからなくても、内定を取れる確率が高く、しかも、日本で成功者になれる可能性の高い飲食業界にまずは就職し、その中で自分を磨き、仕事をすることを通して本来の自分の特 性などをしっかり把握してから、次の業界を目指したり、起業したりという次の展開に備えるということが、賢明な選択であると言えるのです。